PEACE
* * *
この国の城下街は王都というだけもあり、内国の中で最も活発な都市だ。
商人達はそれぞれ自分の店を宣伝するため、声を張り上げているせいか、街に人
々の声が絶えることはない。
「まったく。橘のヤツ、執事のくせに姫に向かって怒鳴るなんて百年はやいんだ
から」
そんな城下街の一角に、奈久留の姿があった。
――どうやら城を抜け出せたようだ。
城で着ていた服とは違い、少し質素な街娘の服を、なんとも違和感なく奈久留は
着こなしていた。
奈久留は先程の出来事についてブツブツとこぼす。
すると、肩にのっていたファルコがある店の前に通り掛かると、目を輝かせてい
た。
――林檎屋だ。
「……、ごめんね、ファルコ」
「キュ?」とファルコは喉を鳴らした。
「今日はお金持ってきていないから林檎買ってあげられないの」
「キュウ……」
奈久留の言葉を理解したのか、ファルコは残念そうに下を向く。
ごめんね、と奈久留はもう一度謝った。
「あら、まぁ。実久留(みくる)ちゃんとファルコじゃない!」
「あ……。こんにちは!」
今まで店を留守にしていた林檎屋のおばちゃんが帰ってきた。
おばちゃんは、なんとも親しげに奈久留のことを『実久留』と呼んだ。
『実久留』とは正体を明かせない奈久留が、城下街で使っている名前なのだ。