PEACE
奈久留は、ぶつかった衝撃で勢いよくその場に座り込む。
お尻に確かな痛みを感じながら、奈久留は何が起きたのか分からないという顔で、ただキョトンとしていた。
「大丈夫か?」
低いトーンの透き通った声。
その声で、やっと現実に呼び戻された。
「――っ!?」
顔を上げると、すぐそばには端正な顔をした男が奈久留の顔を覗きこんでいた。
吸い込まれそうな綺麗な瞳に、奈久留は見とれていた。
その体つきや身長から、まだ成人はしていない少年だということがわかる。
「あ、……はい」
「ん」
短く言葉を返すと、その少年は地面に腰をおろしたままの奈久留に手を差し延べた。
その手に一瞬は動揺したものの、遠慮がちに奈久留はその手をとった。
「ケガはないか?」
「は、はい。大丈夫です」
「そうか、よかった。……本当にすまなかった」
奈久留にケガがないのをを確認すると、その少年は先程拾い集めておいた林檎のカゴを奈久留に渡した。
そして、もう一度浅く頭を下げると、急いだ様子で店と店の間の小道へと姿を消していった。
「それじゃあ帰ろうか! ……ファルコ?」
奈久留は、ファルコの様子がおかしいことに気が付いた。
ファルコは、すでに少年の姿が見えなくなってしまった小道の先をジッと見つめ、風の匂いを嗅ぐ仕草をし始めた。
――風を通してその少年の匂いを嗅いでいるようだ。
ファルコは他の動物より嗅覚が優れている。
一度嗅いだ匂いは絶対に忘れないのだ。
しばらくして、ファルコは何かを確信したのか、少年の後を追うように走り出した。
「ファルコ!?」
一瞬は躊躇ったものの、奈久留は急いでファルコを追いかけた。