好きの気持ち【短編】
「葵はさあ……なんで彼氏つくんないの?」
心地よいメロディーと程よい静けさの喫茶店。
そのテーブルの正面に座る友達が尋ねる。
「この前だって池田に告られて断ってたでしょ。
いいやつだし付き合えばよかったのに」
淡々と発せられる言葉に苦笑いを返す。
『どうして』
ずっと考えていた。
人を好きになれない理由。
告白されても付き合ってみようと思えない理由。
何度も問いかけた。
そしたら必ず胸の中で引っかかっていたこと。
私たちは喫茶店を出てそれぞれの家路を辿る。
手を振った右手の指先が風に当たり冷たくなった。
背を向けたあとにすぐ両手を握りしめ、空を見上げた。
……忘れられてないんだよね、きっと。