プラチナの誘惑
涙でいっぱいにしてじっと俺を見つめる瞳を受け止めながら、思い出すのは…。

「ニューヨークで何時間も見てたな」

「…?」

思い出すように言う俺に相変わらず何も言わない彩香。

瞳の奥から疑問符を投げかけているけれど。

「美術館でじっと絵を見てたよな…」

「それ…前にも聞いたけど…」

「あぁ。言ったな…」

その時には気づいてなかった…いや、ニューヨークで彩香を見かけた時から気づかない振りをしていた想い。

彩香に触れて抱きしめてキスをして。
俺のそんな行為を不安に思わない訳じゃないはずの彩香の経験不足につけこんで、ごまかしていた想い。

自分自身が抱える壁から逃げずに、彩香に向き合って…。
今までに持ち合わせなかった力を出さないといけない時がきたのかもしれない。

信頼と…欲しいものを
ちゃんと欲しいと認めて求める勇気。

「なあ彩香…。俺って
格好いい?」

戸惑いを隠さない彩香の返事を待たず…もう一度
唇を寄せて。

「俺をちゃんと見て」

彩香の震える唇は温かくて…甘かった。
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