プラチナの誘惑
ソファに座ったままうつむく彩香の足元に膝を落として、そっと目の前の顎に指を差し入れた。

くっと俺に顔を向けさせると、涙でうるんだ瞳がようやく俺を見つめる。

「…何があった?逢坂さんに何か言われたか?」

「…」

「黙り込むなよ。
そんな、泣きそうになるような何があった?」

優しく聞く俺の言葉に、苦しそうな表情を浮かべて、ぐっと結んだ唇からはなんの答えも返ってこない。
それほどの悲しい何かが彩香の心を占領しているということしかわからない。

「…彩香…何か言えよ」

彩香の額に、俺の額を合わせながらため息をつくと、瞬間。

我慢し続けていただろう涙が静かに流れはじめた。
瞬きをせず、ただ俺の目を見ながら。
静かな涙が、ただ彩香の頬をつたう…まるで時間が止まったように。

「…昴は…格好いいよ。
前からわかってた…」
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