プラチナの誘惑
そんな負の想いを抱えていたことによって動けなかった三年近くの俺。

兄貴と芽実さんが幸せなら。
たとえ、思い通りの生き方をしていないストレスの中でも、二人愛し合い
全てを受け止めて幸せなら…。

俺も、自分の気持ちを封印して、本音を隠して、彩香を戸惑わせるままにはっきり言えなかった本音だけを根拠に…。

彩香に手を伸ばしてもいいんだろうか…。

彩香と幸せを掴む努力をしてもいいんだろうか…。

大きく息を吐き、軽く兄貴達に手を上げて車に乗り込んだ。

後部席に、服であふれ返っている袋を置いていると、芽実さんが窓越しに
声をかけてきた。

「私達は幸せなんだからね。
その男前の顔の裏の遠慮は無しにして、さっきの綺麗な彼女捕まえなさいよ」

言葉の調子は軽いけれど
俺を見つめる瞳は深く真剣で。

芽実さんの後ろにいる兄貴も同じ顔をしながらも芽実さん以上に不安げに見える。

「奏も私も、昴が思ってるよりずっと幸せなんだからね」

兄貴を振り返りながら、言い切る芽実さんの肩を抱き寄せて

「芽実よりいい女がいるとは思えないけど、昴が選んだ女、早く連れてこい」

笑う兄貴の声は、長い間凍らせていた心を溶かす魔法の言葉のように。

体中に染み渡っていった。
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