プラチナの誘惑
③
「…で、飛び出してきたって?」
「そう。逃げちゃった…」
俯く私と、呆れて天井を見上げる日和…。
揃って小さくため息をついた。
はあ…。
私は後悔のため息。
日和は呆れたため息。
仕事を持ち帰った日和が図面のチェックをしているリビング。
日和の背後に小さく座って恐縮しっぱなし…。
普段からしょっちゅう来ているこの部屋だけど、こんなに居心地の悪い思いをするのは初めて。
この1時間、昴の部屋からやって来た私の話を淡々と聞いてくれた日和だけど、落ち込む私を慰めてくれるどころか
「…悲劇のヒロインなんて、そうそうなれるもんじゃないんだからね」
図面から目を離すことなく、低い声で突き放されてしまった…。
思いもよらなかった言葉に、最初は聞き間違いじゃないかと焦ったけれど
「せめて、昴が部屋に戻るまでいなきゃだめだったね」
続く駄目押しの言葉が、聞き間違いじゃなかったと…。
ニヤリと笑う目を向けられながら、ようやく理解できた。