プラチナの誘惑
「彩香…?」

少し戸惑ってるような昴の声にはっと顔を上げると、心配そうな視線とぶつかった。

「で、俺に用だったのか?
設計部に来るの珍しいだろ?」

「あ…そうじゃなくて…ちょっと相模さんに用があったんだけど…」

「相模さん…?」

接点のほとんどない私と相模さん。
昴が不思議に思うのも無理はないけれど、こうして目の前に並ぶ昴と優美さんの姿を見ると、早くこの場から立ち去りたいって気持ちばかりが溢れてくる。

「ちょっと用があっただけ…。
仕事に戻らなきゃいけないから。じゃ」

早口でつぶやいて、なんとなく優美さんにも頭を下げて軽く挨拶して。

設計部を出ようとした時。

「おい、彩香…『一階正面に車回すから』…」

昴が私を呼び止める声と重なって、側を通り過ぎながら声をかけていった小椋さんの声が聞こえた。

「はい。急いで下ります」

慌てて返事をする私に、背中を向けたまま右手を上げてエレベーターに乗り込んでいった。

「車って何?どっか行くのか?」

はっきりと不機嫌な声で聞いてくる昴。
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