プラチナの誘惑
さっき感じた小椋さんの声の震えは、聞き間違いなんかじゃないと気づく。
私よりも野崎さんと柚さんに近い位置で付き合ってる小椋さん。

明日出産を控えた…命懸けの…。

柚さんの事を何も思わないわけはない。
心配しないわけはない。

何も言わないのは、何を言っても落ち着かない気持ちをどうする事もできないから…だと思う。
それほど親しい付き合いがない私には、社内に知られている、何事にも動じないマイペースな印象でしか小椋さんを見るしかなかったけれど。

きっと、気持ちを抑えて閉じ込めるのが上手なだけなのかもしれない。
今だって、日和だったら
小椋さんの心の波をちゃんと察するのかも。

…誰だって、柚さんの無事な出産を祈ってる。
淡々とした表情の小椋さんだって…。

ちょうど赤信号で車が停まって。
ふと、自然と口に出た。

「柚さんに、小椋さんが出産祝い何でも買ってくれるって言っておきます」

「…は?」

思わず私を見る小椋さんは、一瞬の後で軽く笑うと

「あぁ。ちゃんと考えておけって言っておいてくれ」

力強い口調でそう言ってくれた。
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