プラチナの誘惑
優美の新居の設計チームのサポートをする事になって、周りの視線が面倒くさい。
以前つきあってたという事は周知の事実だって改めて思い知らされる。
お互いが納得して別れたとはいえ、元恋人の俺が設計チームに参加するなんて、社内の噂にならずに済む訳はない。
…彩香にしても、俺が優美と付き合っていた事は知っているだろうし、きっといい気分じゃないだろう…。
はあ…。
周りに気づかれないような小さいため息が何度も出る。
その度に浮かぶのは、泣きそうな表情でエレベーターに乗り込んだ彩香。
自分の気持ちを人に押し付けない彩香のあからさまに悲しげな表情には、どれほど優美の存在を意識しているのかが伝わってくる。
慌ただしく距離を縮めて俺のものにして、優美の事にしても何も言ってなかった。
結婚間近の優美と俺の関係は今はもう全く何もない。
付き合っていた時でさえ感情の上では恋人というよりも親友に近かった。
そんな俺達の関係は彩香が知っているわけもなく。
焦った俺が思わず
今夜も部屋に来い
と言ったのは彩香への気遣いというよりは、不安。
ようやく手に入れた宝物を手放したくないという強い思い。
横で大笑いする優美にムッとしながら、どこに行くのかわからない彩香を追いかけて行きたい気持ちを必死で抑えた。