プラチナの誘惑
午後のけだるい時間を、図面を広げたままで彩香の事をぼんやり考えていると、

「昴、電話」

目の前に突然携帯が差し出された。

はっと顔を上げると、真剣な目をした日和がいた。

「何だよ…びっくりするだろ」

「…小椋さんから。早く出て」

俺の言葉は無視か?

どうして小椋さんから…?

訳がわからないまま、じっと携帯を差し出したままの日和の迫力に携帯を受け取った。

「…お電話代わりました…」

『小椋だけど。相模には言ってあるから、今から柚さんの入院している病院に行ってくれ。
今、森下もいるから…
迎えに行け』

「は…?柚さんって…」

『明日出産だ…。
森下は新しい布絵本届けに行ったんだ』

布絵本…?

隣にいる日和を見ると、相変わらず真剣な表情で俺を見ている。

『森下を迎えに行け』

そう聞こえてくる小椋さんの言葉の意味も、日和の表情もわからないままいると、少し離れた席から視線を投げてくる相模さんに気づいた。

目が合うと、ゆっくり頷く相模さん…。

「わかりました。…今から行きます」

日和に携帯を返して、まだよくわからないままに病院へ向かった。

彩香…大丈夫なのか…?
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