プラチナの誘惑
「柚の頑固な性格のおかげで予想よりも大きいんだ…。お腹に長くいたから、保育器には入ってるけど健康な子供なんだ」
目を細めてガラス越しに話す野崎さん。
横に立って、私と昴もじっと桜ちゃんを見つめる。
確かに小さいけど、見るからに肌の色も健康的で私達に向ける瞳もキラキラしている。
「…かわいい…」
ぎゅっと握りしめられた手の甲には点滴の管が入っていて痛々しいけれど、とにかく健康な赤ちゃんにホッとする。
「私…また布絵本作って桜ちゃんに持ってきます。柚さんに読んでもらってください」
ほんの少し潤んだ目を隠すように言うと、
「…柚が読んでやれるんだよな…本当に…」
大きく息を吐いて。
噛み締めるように呟く野崎さんは、ホッとしたようにガラスに額を押し付けた。
「桜…良かったな」
そんな野崎さんの震える背中には、今まで抱えてきた不安や覚悟が見える。柚さんが手元からすり抜けていく悲しみや涙をひたすら隠しながら今日を迎えたに違いない。
お互いに離れられない二人を引き裂くなんて何物にもできない…。
柚さん一人を本気で愛している野崎さんがすごく素敵に見えて、そんな男性に愛されている柚さんが羨ましい…。
ふっと。
隣の昴が私の右手を握った…。恋人つなぎじゃなくて、荒っぽくぐっと力いっぱいにつかむように。
驚いて見上げると、切なそうな瞳とぶつかる。
何かを秘めたように揺れる瞳。伝わってくる想いから逃げられない。
そして逃げない。
気のせいなんかじゃない。
昴だって私を一番に愛してくれている。
ちゃんと、確かに、しっかり。
昴の手からも注がれる愛に目眩がしそう…。
微かに頷いて、私からも想いを返した。
愛してる…。