プラチナの誘惑
「もう、見つめて欲しがるばっかりの毎日は嫌なんだ。欲しいもんはなにがなんでも取りにいく。…誰にも気がねはしない」

力強い目と言葉が私を捕らえる。
裸で抱き合いながら…そんな不安定な状況が更に私を戸惑わせる。

心臓の音が大き過ぎて、昴の言葉を聞き違えたかな…。

「気がねって…何?
何かに遠慮でもしてた?」

「…兄貴」

「お兄さん…?」

意外な昴の言葉に言葉が続けられなくなった。
お兄さんと芽実さんにお父さんの会社で会った時には、私に優しく気を遣ってくれて受け入れてくれたと思ったのに…。
昴にしても、結構生意気な言葉を言いながらも親しい空気を作っていたのに…?

「昴の事…可愛がってるように見えたけどな…」

「あー。それはそうなんだ。目茶苦茶俺の事を大事にしてくれてる。
…それも原因の一つ」

私の髪を撫でながら、気持ちはどこか違う所に飛んでいってるような表情…。何かを思い出してるのかな。

「兄さんは…生まれながらの後継ぎで。自分自身の意志は全く汲んでもらえないままに大人になったんだ。
会社の仕事も俺には一切関わらせないように配慮してくれて、親父の望み通りに一手に引き受けたんだ…」

苦しげに笑うと、私の体をぎゅっと抱きしめて

「俺には、好きに生きられる人生を与えてやりたいって…自分自身は会社にどっぷりつかって何の夢も叶えずに…。
俺だけは会社に振り回される人生を送って欲しくないって…。

そんな事を知って…素直に好きに生きられるか…?
兄さんが自分の人生を犠牲にしてくれた上に安穏と欲しいもん…彩香を手に入れていいなんて思えなかった…」

吐き出すような言葉が私に落ちてきて…私はただ聞いてるだけ…。
微かに震える昴の体に腕を回して…大丈夫…大丈夫…と呟いた。
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