プラチナの誘惑
ゆっくりと私の肩から顔を上げた昴は、視線は私と絡ませたまま、私の左手を取った。

え…?何…?

思い詰めたようにぐっと私を見つめて。
私の左手を昴の口元に持っていくと…。

「…いたっ」

突然、私の左手薬指を噛んだ。
チクっと軽い痛みに驚いて、手をふりほどこうとしたけれど。

「この指のサイズを聞いてるんだよ」

離してくれず。
更に力強く握られてしまった。

「意味わかるよな。
何で聞いてるか理解してるよな」

低く落ち着いた声が、少しずつ私の中に染み入る。

力が抜けて、昴の手に納まっている薬指を体中で意識しながら…決して高圧的じゃないけれど拒絶を許さない昴。
どうしても逃げられない空気に包まれて。
同時に感じる嬉しさ。

「…私一人じゃ嫌だ」

「…は?」

「昴は私だけのって印をちゃんとはめて欲しい」

突然の展開に呆然としながらも、どうしてか私の中にあった希望…小さな頃からの憧れが口から出る。

「マリッジリングをはめない男の人も多いけど、私ははめて欲しいの。
お揃いのリング…」

「俺が浮気するとか思ってる?」

苦笑しながらの声は決していい気持ちじゃないって感じるけど。
それでも。
言わずにはいられない。

「昴に浮気する気持ちはなくても…他の女の子がチラッとでも昴に気持ちが揺れるのが嫌なの。
たとえ揺れても…リングしてれば撃退してくれる…」

「撃退って…くくっ。
言っとくけど、たとえ指輪してたって寄ってくる女はいるけど…?」

「そんなのわかってるけど…」

軽く笑う昴の言う事もわかるけど…。
指輪してても、結婚してても、昴を気に入る女の子はこの先いっぱい現れるだろう…。

昴が拒否したって人の気持ちはどうにもならない。
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