プラチナの誘惑




見ているだけでいいと思っていた。

ちゃんと自分を持って生きている彩香に対しては単なる同期としての距離を縮めるつもりはなかった。

前に出て意見を出すタイプではないけれど、一つ一つの出来事を地に足をつけて受け止めて答えを出していくバランスのとれた性格を信頼する人は多い。

設計部門をメインにまわるこの会社の中で、どちらかというと目立たない仕事をこなす宣伝部にいながらも、彩香の存在を知る社員も多い。

仕事で信頼されているのもあるけれど、群を抜く綺麗な顔によるところも多い。
本人が気づいているのかいないのか。
好意を持つ男のアピールにも何の反応も見せず、誰とも同じようにつきあっている…。

同期の枠という特別なつながりがなければ、俺だってその他大勢の同僚の一人だったはず。

そして…。
たまたま見かけたニューヨークの美術館。
頑なに周囲から自分を閉ざしたまま集中して作品を見ていた彩香。

その時から…声をかけられなかった俺の、彩香をただ見つめる時間は始まった。
< 37 / 333 >

この作品をシェア

pagetop