プラチナの誘惑
…とにかく姉さんとの電話を終わらせて。
落ち込み気味の気持ちを盛り上げる時間が欲しくて、お店の前にあったベンチに腰掛けて鼓動を整えていた。
3月の夜風はまだ肌寒くて、お店に上着を置いてきた事を少し後悔しながらも、姉さんと話した後に胸に広がる無力感を落ち着かせるにはちょうどいい…。
すっかりお酒も抜けて、思考能力も戻ってきて。
『何かあったの?』
と言った姉さんの言葉が何度も頭の中をリピート。
今まで散々逃げ回っていたお見合いをする私の心境の変化に納得いかないんだろうな…。
ふぅ…。
俯いて落ち込む心のままに落ち込んで。
いつものように、じっとそんな負の時間が過ぎるのを待ちながら目を閉じていると。
ふわっと体を覆う暖かさ。
「え?」
はっと目を開けると、お店に置いていた上着がかけられていた。