僕の明日みんなの明日
ボーっとした頭の中にふと部屋の外の世界のことが浮かんだ。僕が死んでしまったことでどんな影響が出たんだろう?お父さんのことは気になるけど、いつまでもここで座っていても意味がない。家の様子も知りたい、一度家に帰ろう。

病室を出て出口に向かった。途中で何人かの看護婦さんとすれ違った。僕の気配を感じる人はいたけど、あの看護婦さんのように僕の姿が見える人はいなかった。

誰にも気付かれない、それがこんなに淋しいものだったなんて。無視されて寂しいとかそんなレベルじゃない。もう家族や友達とも話ができないなんて…。そう考えるとまた悲しい気持ちになった。

病院を出るともう太陽が出ていた。日の光はとても眩しくて、僕の全てを照らしているようだった。太陽を見ると考えてしまう、僕は本当に死んだんだと。一人でいるときは生きてるときとなんの変化もない、けど誰かに会うと分かる。自分はもう存在していないんだと…。

色々考えたけど、結局なんの答えも見つからないまま歩いているといつの間にか家に着いていた。

家に着くと、家の前には立入禁止の札が貼られていた。家に入って見ると玄関には僕が死んだ跡が残っている。僕がどういう格好で死んでいたかがはっきり分かるように白いテープで形作られている。自分が死んだ場所を眺めるなんて変な話だよ。一瞬目の前が歪んで倒れそうになった。ここに居ると気分が悪い…。僕は玄関を離れた。

リビングに入るとさらに気分が悪くなった。酷く荒れていて、一番目に入るのはお父さんの血の跡だ。まだはっきり残っている…こんなに血が出ていたのに助かったなんて。本当に良かった、お父さんが生きていて本当良かった。

僕はとても不思議な気分だ。自分が死んだ悲しみよりお父さんが生きていてくれる方が何倍も嬉しい。

それはきっと僕は死んでしまったことを受け入れてしまったからなんだ。自分でこんなこと言うのはいけないことだと分かっているけど、死んだのが僕で良かった…。
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