僕の明日みんなの明日
お母さんは過去を振り返るように遠い目をして話しを始めた。

『美奈(お姉ちゃん)が二歳ぐらいの時、アタシたちはすれ違っていたの。アタシは子育てや家事や仕事で忙しくて疲れ果てていた。拓也さんも仕事仕事で毎日遅くまで家に帰ってこなかったわ。アタシたちの関係が冷めているんだと思っていた。拓也さんはアタシに興味がないのかもしれない、そう考えれば考えるほど寂しくて、辛くてどうしようもなかった。そんな時に上司の山村さんに誘われるがままに関係を作ってしまった。しばらくしてアタシはこんな事は間違いだと気付いて関係を切ったわ。でも気付いた時にはもう遅かった。アタシは山村さんの子を身ごもっていた。アタシは悩んだ末、正直に拓也さんに全てを話した。突き放されても仕方ないと覚悟してたわ。だけど、拓也さんはアタシを許してくれた。そしてお腹の子を産んで、二人の子供として育てようとも言ってくれたの。その時の子供が浩太よ。拓也さんが許してくれて安心していると同時にとても不安だった。拓也さんは心の底では恨んでるんじゃないかと考えてしまう時もあった。そして拓也さんはとても浩太を可愛がってくれた、もちろんアタシも浩太を愛していた。けれど浩太を育てていくうちに浩太が日に日に山村さんに似てきていることに気づいてしまった。浩太が本当のことを知った時、浩太はきっとアタシを恨むに違いない。浩太に嫌われるのが怖かった。それに拓也さんに優しくされればされるほど裏切った自分が許せなかった。このままだと頭がおかしくなりそうだった。だからアタシは浩太を拓也さんに押し付けて二人から逃げ出した。結局アタシは自分を守ることしかできなかったの。』

僕はお母さんの気持ちを最後まで一言も零さずに聞いた。
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