僕の明日みんなの明日
初めて会ったときは気付かなかったけど、あの感覚が身体に伝わっている。

『看護婦さんって幽霊だよね?』

『あら、やっぱりバレちゃった?正解、私はこの病院というよりこの病室に取り憑いてる地縛霊よ。』

『どうしてこの部屋にいるの?』

『ここで人を待っているの。世界で1番大切な人をね。』

『ふ〜ん、どれくらい待ってるの?』

『さぁ?30年ぐらいかな。』

『30年も!?どうして自分から会いに行かないの?』

『幽霊ってね、人や場所に想いがあるから存在していられるの。その想いが強ければ強いほど、その人や場所に縛られて離れなくなる。始めはそんなことなかったんだけど、なんとなくあの人がいたこの部屋にいて、気付いたら離れなくなってたの。』

『僕の友達、幽霊が見えるだ。そいつに頼めば探してくれるかもしれないよ。』

『ありがとう、でもいいの。あの人とはココでまた逢おうって約束してたから。私は逢いたいんじゃなくて、あの人に逢いに来て欲しいんだと思う。だから私は諦めることができる日が来るまで待ってるわ。』

看護婦さんは哀しい目をして呟くと、静かに消えていった。周りを探してみたけど気配は無くて、呼んでみても返事はなかった。

長い間たった独りで誰かを待ち続けるなんて…。でも、僕にも看護婦さんの気持ちがなんとなく分かる気がした。看護婦さんは逢いたいんじゃない、愛されたいんだと思った。それは僕にも歩君にもどうしようもないことだ。お父さんの手を握ろうとしたけど、手を擦り抜けて触ることはできなかった。

幽霊ってこうゆうことなんだ、人の温もりを感じることができない。いつでも孤独と隣り合わせにいる、それを解決する方法は一つだけ。それはこの世を去ること。このままここにいても虚しさがつのるだけなのかもしれない。それでも僕はお父さんと離れたくないと思ってしまう。
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