僕の明日みんなの明日
駅に着いてすぐにお店は見つかった。灰色のマンションの一階が歩君の家が経営しているレストランになっていて、お店の前には紅い目立つ文字でグラッチェと書かれている看板が立てられている。

お店に入ると昼時だからだろうか、お客がたくさん入っている。坂口先生が言ってた通り人気のある店みたいだ。

店の中を見渡してみたけど、さすがに店の中には歩君の姿はなかった。レストランの人はパーマ頭の少し太めの女性だけらしい、歩君のお母さんかな?店の奥には厨房があった。中に入ってみると茶色い短髪で細身の男性が一人で料理を作っていた。たぶん歩君のお父さんだと思う、歩君とよく似ている。

ここにも歩君の姿はなかった。見えていないけど、おじさんに軽く挨拶をして前を通り過ぎた。厨房奥の扉の向こうはマンションとビルの間の細道だった。

お店の中にも周りにも歩君の姿は無い。そうだよ、親のお店が家ってわけじゃないよね。がっかりして、その場に座り込んでいると。

『浩…太?お前浩太だろ!?』

パッと顔を上げると不思議そうに見つめる歩君の顔があった。声の主は歩君だった。あまりに嬉しくて抱き着こうとしたら、歩君の身体を通り抜けてしまった。

『バカだな、幽霊なんだから俺に触れるわけないだろ。それよりどうしたんだよ?なんで父さんの店にいるんだ?』

『歩君を探してたんだよ。歩君に頼みたいことがあるって人がいるんだ。加山桜さんっていうんだけど。』

『俺に頼み?…そいつ幽霊だろ。』

『そうだよ。』

『だろうな。言っとくけど、俺は嫌だからな。』

『なんで!?お願いだよ、歩君にしか頼めないことなんだよ。桜さん、とっても困ってるんだ。』

『五月蝿いっ!!もうたくさんだ、どいつもこいつも「君にしか頼れる人はいないんだ」。そういうの、うんざりなんだよ!!』

何故だかは分からないけど、「頼む」という言葉は歩君には言っちゃいけなかったみたい。すごく怒っているのが分かる。

『どうしたの?僕の時は助けてくれたじゃないか。』

『あれは、ただの気まぐれだ。俺は幽霊の悩みをいちいち聞いてやるほどお人よしじゃない。』

『どうしてそんなに怒ってるの?何かあったの?だったら何があったか聞かせてよ。』
< 28 / 69 >

この作品をシェア

pagetop