僕の明日みんなの明日
少し息を荒くした歩君は一度深い深呼吸をして話し出した。僕は歩君の話を静かに聞いた。

『小学二年に上がる前に、家の階段から落ちて頭を強く打ったことがある。その時、打ち所が悪かったらしくて俺は死の境をさまよう事になった。その後なんとか一命を取り留めることができたけど、以前とは目に入る物が違っていた。初めはぼんやりと、だんだんはっきりと見えるようになってきた。それが幽霊と気付くには少し時間がかかったけど、自分にしか見えないモノだと理解した。そして俺は幽霊と話すようになり、最初は話を聞く程度だったが、幽霊に頼み事をされるようになった。俺だって力になってやりたかったから聞いてやったよ。だけど、あいつらだんだんエスカレートしていって頼みごとも大きくなった。しょせんガキの俺にできる事なんてたかが知れてる。幽霊達は頼み事を断る俺を追い回しそして、周りの俺を見る目も変わってった。俺が幽霊と話をしている時は、周りから見れば独り言を呟いているようにしか見えない、だから俺は幽霊を無視してた。でも、あいつらが君にしか頼むことができないとかなんとか言ってきて無視しきれなかった。それでもまだ良かった。幽霊の頼みを聞くために人に会って通訳をしてやったけど、全員が幽霊の存在を信じてくれる訳じゃない。中には俺を詐欺師扱いするやつだっているんだ。そのせいで両親まで悪く言う奴らも現れる始末だ。父さんと母さんはそんな状況でも俺を庇ってくれた。それでも周りの冷たい目やくだらない噂なんかで結局俺たち家族は街にいられなくなり転校することになった。』

『・・・ゴメン、そんなことがあったなんて知らなかった。』

『別に、浩太が悪い訳じゃねぇよ。』

『だけど、そんな事があったのに僕の為に力を貸してくれたじゃないか。』

『…実は何であんなことしたのか俺にも分からないんだ。何となくお前を無視することができなかった。お前が幽霊だってことは分かってたけど、他の幽霊とは違う気がした。』

僕は歩君の言った言葉に少し驚いた。だって僕も歩君には不思議なモノを感じていたから。
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