僕の明日みんなの明日
各務さんは歩君の顔を見るとニコッと笑顔を向けた後、警備員に命令をした。

『そうか、もういい。その子を降ろしてあげなさい。』

警備員はすぐに歩君を降ろして各務さんに頭を下げて勤務に戻った。そしてもう一度歩君に笑顔を向けて声をかけた。

『君、このビルに何の用かな？』

各務さんは優しい笑顔に声もとても優しい。桜さんが好きになった理由も分かるような気がする。歩君は警備員にクシャクシャにされた衣服を綺麗に整えながら各務さんに挨拶をした。

『はじめまして、俺は柴原歩。あんたが各務昭人？』

『そうだけど…どうして私の名前を知っているんだい？どこかで会った事があったかな。』

『いや、初めて会うよ。あんたに話があるんだ、あんたの恋人のことで。』

歩君の言葉を聞いていた周りの人達が騒ぎ出した。副社長に恋人がいるって事は結構スキャンダルになるんだな。なんかテレビみたいだ。周りの雰囲気を見て僕は歩君にもう少し小声で話さないとって言ってみたけど、いいからと口を塞がれた。周りが騒いでいるのにもかかわらず顔色一つ変えない各務さんに歩君は更に言葉を加えた。

『それとも恋人の名前も言った方がいい？』

歩君の脅し文句に各務さんは鼻で笑った。

『ふっ、面白い子だ。私に話があるんだね？だったら私の部屋に来てくれるかな。』

大人の余裕だろうか、各務さんは歩君の言葉に少しも動揺することなくビルの中に歩君を招き入れた。
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