僕の明日みんなの明日
暗闇でよく見ないけれど、大きな人影があるのは分かった。影はゆっくりと一歩一歩僕に近づき、1メートルくらい手前で月明かりに照らされて男の顔がはっきりと見えた。

男の髪は無造作に伸びてボサッとしていて、顔の中心の大きな鼻が特徴的だった。背が高くて今の僕には巨人のように感じてしまった。そしてその男はニヤニヤと笑いながら僕に近づいてくる。

体中の細胞が訴えかけてくる。「捕まったら殺される!!」早く逃げなくちゃ、逃げろ逃げろニゲロニゲロニゲロニゲロ―。震える足に何度呼びかけても動く気配はなく、それどころかどんどん力が抜けていってしまう。

『かわいそうに、怖くて動けないのか?』

気が付けば男は僕の目と鼻の先にいた。男は低い声でニヤつきながら僕に話し掛けてくる。

『お父さん動かないね、死んじゃっかな?』

そんな、死んだ?お父さんが?嘘だ!嘘だ!嘘だ!お父さんはぐったりと倒れ込んでいて真っ赤な血が見えたような気がした。目から涙が溢れ出てきた。

『お父さん!お父さんっ!』

無我夢中でお父さんを呼んだ。けれど血まみれのお父さんは返事さえしてくれなかった。

『大丈夫。すぐにお父さんに会えるから。』

男は優しく語りかけながら僕の首を締めた。

苦しい、誰か助けて。怖いよ…お父さん…お母さん…お姉ちゃん…先生・・・。

だんだん男の手に力が入っていく。目が霞み始め、意識が遠くなってきた。

息ができない、目の前が真っ暗になった。

…お父さん。
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