ラブリーホーム*先生の青③
………コンコン
ドッキ――――――――ン
いきなりのノックに
心臓が飛び出るかっつうくらい
驚いた
「な、なに?」
口から出た声は上ずっている
「パパ?今、大丈夫?」
「ああ、うん」
返事をしても
イチがドアを開ける気配はない
椅子から立ち上がり
ドアを開けた
ドアの前
立っていたイチの肩に
リュックの肩ベルトが見えて
なんだ その荷物は――――
って思ったけど
肩越しに
指をしゃぶる青波が見えた
……ああ、リュックじゃない
青波をおんぶしてるんだ
「あのね、パパ
部屋どうしよう」
「部屋?」
「郁弥くんの部屋だよ
ちゃんと用意してあげなきゃ」
「………ああ」
「あの部屋を片付ける?」
イチはそう言いながら
玄関とトイレと浴室以外で
唯一 鍵のついてる部屋
オレのアトリエへ向かった
アトリエの鍵を開ける
青波がくっついた
イチの背中を見て
……どうしてだろう
こうして普通にしてても
ある日 突然
イチが去って行くんじゃないか
そう思える
今日オレの前で笑ってても
明日なにも言わず去って行く
そういう事が出来る魔物を
イチは腹の中に
飼ってる気がする
……そんな風に
自分の妻を見るオレが
どうかしてるんだよな
でも
紐を離せば
遠く遠くに飛んでいく
風船を
イチはいつもオレに
思わせる