ラブリーホーム*先生の青③
「ここを使わせるのは
かわいそうだよねぇ」
アトリエに一歩入り
イチは呟いた
「絵の具くさいもんね」
小さな折り畳みの机
山のようなキャンバスと
スケッチブック
床に転がる絵の具や
筆、ナイフ
「ここにパパの荷物移動して
パパの部屋を
貸してあげようか」
イチの言葉にうなずき
「本当にごめんな
ありがとう」
イチはオレを見上げ微笑んだ
「いいえ」
チクリと胸が痛い
ありがたい
ありがたいけど
イチの本音が見えない
「かなり放置してたし
掃除しなきゃねぇ……
パパが良ければ
荷物の移動とか手伝うよ」
イチが少し遠慮がちに言った
「良ければってなんだよ
手伝ってくれた方が
オレは助かるぞ」
だって
イチはそう上目遣いに
オレを見て
「私に見られちゃまずい物
少しはあるんじゃないの~?」
からかうような口調に
少しホッとする
「ないよ、多分」
「多分なんだ」
「多分だよ。
だから気まずい物は
見て見ぬフリして」
見て見ぬフリ?
イチはクスクス笑って
床に落ちてた
コバルトブルーの絵の具を拾い
「そうだね、うん、そうする」
絵の具を握りしめた
イチの表情は
オレからは見えない