ラブリーホーム*先生の青③




アトリエの窓を開け放ち
緩い風が入ってくる


床に散らばる
絵の具やら筆やらを
拾い集めてると



イチは壁に立てかけてる
キャンバスの束を
一枚、一枚ながめてた



「ああ、これこれ」


イチの声に顔を上げる
どうやらイチは
何かを探してたみたいだ



「なに?」


「ほら見てよ、パパ」


イチが見つけたのは
生まれたばかりの青波を抱く
イチを描いた物だ



「青波、可愛い~」


「なんか懐かしいな」


『青波だけ描けばいいじゃん』


そう言って
照れて嫌がるイチに
青波を抱かせて
描いたんだよな


イチは母親に抱かれる
青波を描いたと
思ってるけど


オレはイチを描いたんだ


子供を抱き
柔らかい表情をする
イチを描いた



「最近、全然描いてないね」


「う~、まあね。
指導の方が大変だし。
なんせ自分より才能ある奴に
教えなきゃならない」


自由に、好きなように
そんな考え通用しない
学校だからな



○○展の傾向やら
題材の選び方やら
そんな事ばっかり


うまく大御所センセーを
持ち上げらんなくて
職員室じゃ浮きっぱなしだし


オレ実は教師向いてない?
なんて事を考えても
今さら仕方ないし


美術以外の仕事はしたくない



……前みたいな学校は
良かったよなぁ
好きに出来たし




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