ラブリーホーム*先生の青③

動物の絵が描かれた
にぎやかな門を通り
ベビーカーを押して
動物園に入る




パパはビデオカメラ片手に



「休日だって言うのに
空いてるなぁ
大丈夫か？この動物園」



なんて余計なお世話な
心配をしていた




「見て見てー
青波、キリンさんだよ」




柵の前にベビーカーを止め
しゃがんで青波をのぞき込む



喜ぶかと思ったのに
なんだか眉を寄せて
唇とがらせて
難しい表情を青波はした



「青波はキリン
あまり好きじゃないのかなぁ」



私が呟くと
ビデオカメラの画面を
見つめたままパパが



「ビックリしてんじゃねぇ？」



そっか、そうかも



青波と同じ目線のまま
柵の中、のんびり歩く
キリンを見上げる



長い首の向こう側には
青い青い空が広がってた




「スケッチでも
したくなった？」




ふいにパパが
カメラから目を離し
私を見て言った



ああ、そう言えば
絵もしばらく描いてないなぁ


絵を描きたいなんて思う余裕
今の私には全くないし


美術部員だった事なんて
遠い昔の話みたいに感じる


「スケッチのスの字も
思わなかった」


私の言葉に
ハハッてパパは笑い


「なんだよ
寂しいこと言うなって
元美術部員が」



太陽の光を受けた
茶色い髪が
美術室にいた
三島先生を思い出させた



……三島先生の子供産むなんて
あの頃の私は１mmも
想像してなかったな



私の視線に
パパは「ん？」と
首を傾げたから



「何でもないよ」って
ベビーカーの青波を見た



まるでコピーしたような
先生と同じタレ目が
キリンをじっと見上げてた