ラブリーホーム*先生の青③
病室の戸口に立つ
短く刈り上げた髪に
四角い眼鏡の奥の糸目
三島 栄(サカエ)
パパの10コ上のお兄さん
腹違いとは言え
全く似てない
お義兄さんとパパ
兄弟だと言われなきゃ
絶対にわからない
「栄(サカエ)も来たのか
栄と泉が揃うなんて
久しぶりだなぁ」
険悪なムードなのに
気付いてるのか
気付いてないのか
お義父さんはベッドの上で
のんきな声を出した
お義兄さんが
お義父さんの元に近づくのを
パパは険しい表情で見る
椅子に座ったお義兄さんが
「ちょうどいい
夕べ話したことを
今、決めよう」
その途端に
お義父さんが少しうつむいた
パパは
「後にしてくれよ
今、こいつら
家に置いてくるから」
お義兄さんは
少し考えるような顔をしてから
「じゃあ、後で家に来いよ
面会時間も終わってしまうし
家で話そう」
「わかった」
低い声でうなずいてから
「帰るぞ」って
パパは私の背中を押した
青波を抱っこして
病棟の廊下を歩くパパに
「青波、私が抱っこするよ」
左足を気遣って言ったら
「これくらい大丈夫だよ
バカにすんな」
パパは怒ったように言う
……バカになんてしてないのに
エレベーターホールで
▽ボタンを押す
「ねぇ、パパ
お義兄さんが言ってたのって
何の話…………?」
パパの横顔を見上げ
返事を待ったけど
何も返って来なくて
エレベーターのドアが開き
黙ったまま乗り込んだ