ラブリーホーム*先生の青③



「あのっ」


カナさんは玄関のドアを
半分ほど開いた状態で
私を振り返った



「あの、うちのが ご迷惑かけて
本当にごめんなさい」


酔いつぶれた先生の服の背中を
爪が白くなるくらい
ギュッと握りしめた


「中でお茶でも……
あ、コーヒー淹れますよ」


私の言葉に
カナさんは首を横に振り


「下でタクシー待たせてるから」


「あ、ならタクシー代
出させてください
送っていただいたんだし」


「いーの、いーの
じゃ今度ゆっくり
青波の顔を見せてね」


「あ、……」


タクシー代。
受け取って欲しかったのに
私が言う前に


カナさんは手を軽く振って
帰って行った



閉ざされた玄関のドアを
焦点がぼんやりした目で
見つめると



肩にかかる先生の身体が
重みを増していく



潰されてしまう前に
とりあえずコレを
ベッドに運ぼう………



「……先生、しっかりしてよ」


先生を引きずるように
一歩、足を出すと
耳に生暖かい吐息と共に


「………ん~?カナ?」


その声を聞いた時
もう どーしようもないくらい
腹が立ったけど


強く唇噛みしめてから


「違うよ、もう家だよ……」


バカ。
先生のバカ。


のどのギリギリまで出かかった言葉を飲み込んだ



それを言ったら
怒るより
泣いてしまいそうだったから




< 79 / 193 >

この作品をシェア

pagetop