雨のあとに
星川さんは一瞬驚いた顔をして、また話し掛けようとしたからあたしが先に声を出した。

『いい?一度しか言わないからよく聞いて。あたしはなんて言われたってしょうがないよ。でもあんたみたいな女がどうあがいたってお父さんは相手にしないし、あんたみたいな奴にどう思われたって気にしない。』

『な、何よ。本当のこと言って何が悪いのよ。』

『親が娘を自慢して何が悪いのよ、影でコソコソ人の悪口言ってるあんたの方がキショイ!』

そう言った後、側にあった水の入ったバケツを掴んで星川奈菜に水をぶちまけた。そして空のバケツを床に投げ、化粧室から出てドアを閉めた。あたしはホールとは反対の扉に走って外に飛び出した。足がガクガクして手すりに掴まって座りこんだ。夜の風がとても冷たいけど、あたしは今自分のしたことが信じられなくて風を気にする余裕もなかった。心臓がまだバクバクする、けど気分はスッゴく良い。

だんだん落ち着いてきて、立ちあがろうとしたら船が揺れた。そしてざわめき声が聞こえたと思ったらまた大きく揺れて船が傾き出した。あたしは必死に手すりにしがみついて落ちないようにするので精一杯だった。扉が開いてお父さんが慌てて出てきた。

『雨っ!!こんな所にいたのか?心配したじゃないか。さあ早くこっちにおいで。』

『お父さん、何が起こったの?』

『どうやら船が何かと衝突したらしい、このままでは沈没する。とにかく手を。』

あたしは言われるまま手を伸ばして、お父さんの手を掴もうとした。すると、船がさらに傾いて大きく揺れた瞬間あたしの体は船から振り落とされた。

『雨ーーーーっ!!』

お父さんの叫ぶ声がゆっくりと聞こえて、あたしは海の中に落ちていった。波がすごくてあたしの体は浮かぶことができず、海中へと沈んでいくと同時に意識もなくなっていった・・・。
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