雨のあとに
矢がいつ飛んできてもおかしくない状況なのにあがこうとする気もしなかった。死んじゃうって分かるし、スゴく怖いけど…あたしに逆らう権利なんて…ない。あたしは目をつぶって覚悟を決めた。数秒の沈黙の後、ランジュさんの声が聞こえた。

『放て!!』

声が聞こえた瞬間、ディーンと最後に会ったときのことを思い出した。好きだって言ってくれたのに今はあたしのことさえ覚えてない。イヤ…忘れられたまま死ぬのはイヤ。

『死にたくないよ!』

瞳から一滴の涙が流れ、あたしは叫んだ。叫んだ後全く矢が飛んでくる気配がなかったから、強く閉じたまぶたを恐る恐る開けてみた。すると目の前には地面に落ちた沢山の矢と、剣を構えたシーバーの背中が見えた。呆然とシーバーを眺めているとあたしを縛っていた鎖が解け、地面に倒れそうなところをお父さんに抱きかかえられた。

『おと…う…さん?』

『雨、平気かい?こんなにボロボロになって、血だらけじゃないか。』

悲しそうに覗くお父さんの顔が見えた。優しく頬を包むお父さんの手から伝わる温もりが緊張の糸切れて次々に涙が出てきた。あたしはお父さんの胸に顔をうずながら声を出しながら泣いた。お父さんはそんなあたしを優しく包んだ。

『ごめんよ雨、だけどもう大丈夫だからね。』

お父さんに抱かれながら思った。ディーンのことは諦められたって思ったのに全然吹っ切れてなかった。それに、レインを止めるって決めたんだからレインを放ったまま死ねない。
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