雨のあとに
…深い闇が広がる。闇の中をひたすら歩き続ける。どこに行こうとしてるんだろう?そもそもアタシは何で歩いているの?

アタシは誰なの?分からない、何にも分からない。でも、行かなきゃ!…どこに?分けも分からず歩き続けていると行き止まりにさしかかった。

『壁?…違う、扉だ。』

なんの扉だろう?分からないけど、開けてみたい。取っ手を掴んで扉を開こうとした。

『ダメだよ、お姉ちゃん。』

振り返ると、そこには白いワンピースを着た女の子が立っていた。黒い髪に黒い瞳、白い肌が目立つ女の子だ。

『あなた、誰?』

『アタシが分からないの?』

見たことあるような気がする、逢ったこともあるような気がする。でも思い出せない。

『分からない…と思う。』

『とにかく、その扉は開けてはダメ。』

『ごめんなさい、でもアタシはこの向こうに行きたいの。』

『そっちに行ったら、お姉ちゃんがお姉ちゃんでなくなっちゃう。全部消えちゃうんだよ?』

『アタシって何?何も分からないアタシに、コレ以上なくなるモノなんてないわ。』

取っ手を掴んだ手に力が入る。そして少しだけ扉が開いた。

『ディーンのことも忘れちゃったの?』

…ディーン?ディーンは知ってる。ディーンはアタシの大切な人。ディーンの顔が甦ってきた。それから、初めて会った日のことから、最後に別れた日のことまで思い出した。そしてどんどん思い出が泉の様に溢れ、全ての記憶を取り戻した。

『思い出したんだね?』

『レイン…うん、全部思い出した。』

アタシはレインとお互いに笑い合った。

『残念、もう少しだったのに。』

2人以外の声がした。声は扉の向こうからしたらしく、扉の隙間をのぞくと、そこにはもう一つアタシ達と同じ顔があった。この子は誰?レイン…じゃない!どちらかと言うとアタシの方がそっくりだ。

『あなた…誰?』

『アタシはあなたよ。』

『それってどういう意味?アタシはアタシよ。』

バンッ!!とレインは思い切り扉を閉じた。

『危なかった。お姉ちゃん、アイツの話なんか聞いちゃダメよ。』

『今のは何?』

『…アイツが魔王なの。』
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