雨のあとに
その少女は眠たそうに大きくアクビをした後、キョロキョロと周りを見渡した。そして、あたしと目が合った。あたしの体はまるでヘビに睨まれたカエルの様に痺れて動けなくなった。

『あっ!?双黒だ、可愛い〜。』

その子はあたしに近づいてきた。

『あたしクリス。あなたは?』

『…雨。』

クリスはあたしをじーっと不思議そうに見つめた。

『アメは魔王?』

『どうして!?』

『だってクリスが魔王を作ったんだよ。分かるに決まってるじゃん。でも何か違う気がする。』

どういうこと?クリスが魔王を作った?こんな小さな女の子が?驚くあたしをよそにマリアが手を叩きながらクリスに近づいた。

『ありがとう、アメ。あなたのお陰でクリスの封印が解けたわ。』

『この子が魔王を作ったていう魔族なの?』

『そうよ。遥か昔、この世界を恐怖渦に陥れたクリス・セイントよ。』

『あたし…何てことを。』

初めて自分がしてしまった重大性に気づいた。そんなあたしを笑いながらマリアはクリスに近づいた。

『さあ、行きましょう。思う存分暴れて、この世界を破壊尽くしなさい。』

『あなた、だーれ?』

『あたしはマリア、あなたの恩人よ。』

『それよりアランはどこ?』

『アラン?初代マサルドリア国王、アラン・グローリーのこと?』

『うん!』

『あのね、クリス。あなたが眠っている間、スッゴい時間が過ぎたの。アランはとっくに死んでしまったわ。』

『ええ〜、つまんなーい。もっとアランと遊びたかったのに。』

あたしにはクリスが恐ろしい魔族には思えなかった。もしかしたら、クリスが封印されたのは何かの間違いだったのかも。

クリスのお腹がグーっと鳴った。

『クリス、お腹空いた。ねぇ、ご飯作って。』

クリスが甘えるようにマリアに言った。

『ご飯!?そんなのは後にして。今すぐ世界中を破壊するのよ。』

『ヤダっ!!お腹空いたー、早くご飯。』

『いい加減にして、あたしの言う事を聞きなさい。』

『あんた…ウザイ。』

クリスがマリアに手のひらを向けると、一瞬でマリアの頭が消えた。余りに一瞬のことだったから何が起こったのか理解できなかった。
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