雨のあとに

震えるディーンの背中になんて言えば良いか分からなくて、ただ後ろから抱きしめることしかできなかった。

『ディーン…ごめん。』

ディーンは何も答えてくれなかった。それでもあたしは言葉を続けた。

『あのね？あたしには沢山したい事があったの。ディーンと色んな場所に行ったり、ディーンと美味しいモノをいっぱい食べて、ディーンと…ディーンと手を繋いで一緒に居たかった。ごめん、今から消えるあたしにこんな事言われても迷惑なだけよね？あたしの事は良いから素敵な人を見つけて、その人と幸せに…』

あたしが話していると急にディーンが振り返り、あたしを力強く包んでくれた。

『大馬鹿者めっ!!貴様がいないのにどう幸せになれと言うのだ!?』

『…だけど、あたしと一緒にいたって、あなたの言うように幸せになるとは限らないわ。』

あたしは泣きながらディーンを抱きしめた。

『それでも今の私は幸せだ。ずっとこうしてアメを抱きしめていたいのだ。愛している、アメを心から愛している。だから…消えるな！』

『あたしも大好きだよ。消えたくない、ずっとディーンの側を離れたくないよっ！』

そしてあたし達はお互いを強く求める情熱的なキスを交わし、あたしの身体は光の粒となって空へと消えていった。



アメが消えてしまった後、青空からポツポツと雨が降り出した。私はアメを失い、絶望で足に力が入らず、大地に膝と手のひらをついて泣いた。

雨の雫が腕に当たると、傷がみるみるうちに治ってゆく。膝や肩といったように、全身の傷も治っていった。

私だけではない、セイシロウ殿やレオナルドなど魔族だけではなく、人間の兵士たちの傷も同様に癒されていった。

その光景はまるでアメが世界中の人々を癒やしてくれているようだった。私は立ち上がり、両手を広げ全身で降り続く雨を感じ取った。

目の前でアメが消えるのを見た。だが、私はまだそれを受け入れることができないからなのか、どこかにアメの存在を感じてならない。だから私はアメの存在が消えても、私だけはアメを待ち続けようと思う。