雨のあとに
さすが魔族、メリンダさんの足は恐ろしく速くて追いつけなかった。見失って辺りを探しているとカーダが走ってくるのが見えた。

『ちょうど良かった、メリンダさんを・・・』

『私は感激しました、陛下がこんなに早く婚約を決意されるとは。』

『違うの、カーダ。これは誤解なの。』

『まさかディーンをお選びになるなんて思っておりませんでした。』

聞いてないし。

『選んでないから、だから事故みたいなもんなんだって。』

『これで戴冠の儀が行えます、国民も大喜びですよ。』

『ウソ!?もう発表したの?』

『ええ、先ほどメリンダ様が。』

速すぎだって、もう後戻りできないじゃん!カーダは準備が忙しいと走って行ったと思ったら今度は侍女達がやってきて部屋まで引っ張って着替えさせられた。

『ナニこれ?真っ黒のドレスって・・・葬式じゃないんだからもっと明るい色ないの?ピンクとか白とか。』

『何をおっしゃいます、双黒の陛下によくお似合いで素敵ですよ。』

ははは、もうどうでもいいや。そのままお城の外に連れて行かれ、二頭の黒馬に引かれた馬車に乗らされた。町の真ん中を大勢の人に挟まれながら進んで、周りからは歓喜の声が聞こえてくる。あたしが国王になるのをこんなに喜んでくれるなんて、なんか複雑な心境だけど嬉しいかも。その複雑な心境の原因であるディーンの姿が見えない、護衛の為に近くにいたレオンに聞いてみた。

『ねぇ、ディーンは?一応婚約者なんだし、一緒にいなくていいの?』

『こういう国の儀式に国王の隣りに居られるのは伴侶だけなんだ。』

ふーん、なんか婚約してから王様になったから婚約が重要なのかと思ったけど、そうでもないんだ。そうよね、結婚はしてないんだからまだギリギリセーフってことだよね。なんか一人で慌てて損しちゃった。
< 44 / 201 >

この作品をシェア

pagetop