雨のあとに

この気持ちは何？ムカムカするようなズキズキするみたいな、とにかく嫌な気分がする。あたしが変な気分に気を取られている時に、星川さんがあたしに気付いて声を掛けてくれた。

『あなたが北浦さんの娘さんね？北浦さんが言っていた通りスゴく可愛い。初めまして星川 奈菜(ﾎｼｶﾜ ﾅﾅ)です。』

あたしも自己紹介して差し出された手を握り握手を交わした。お父さんはあたしが褒められたことが嬉しかったみたいで、あたしの自慢話を始めてしまった。あたしは直ぐに止めようとしたけれど、「恥ずかしがり屋なんだ」と言ってやめさせられなかった。

しばらく星川さんは笑顔で聞いてくれて、化粧を直してくると言って化粧室に行った。あたしはお父さんにトイレに行くと言って星川さんを追いかけた。本当はトイレに行きたかったんじゃなくて、星川さんにお父さんの弁解しに行ったんだ。

ホールを出て廊下の突き当たりを右に行った所に化粧室はあった、中に入ろうとしたら中から星川さんと数人の女の人の声が聞こえた。

『ったく、娘になんか話し掛けるんじゃなかったわよ。お世辞で可愛いって言っただけで本当なわけないじゃん！大体あの娘年いくつよ？』

『高校生ぐらいじゃない。』

『高校生にもなって父親にくっつくなっての、邪魔で仕方ないわよ。』

『ファザコンなんでしょ。』

それからもあたしの悪口は続いた。あたしはショックでドアノブを掴んだまま呆然と立って話を聞き続けているしかできなかった。

『･･･だよね？てか北浦さんもヤバくない？娘にデレデレしちゃってさ。あたしの誕生日パーティーに来たときにあたしが誘った時も娘が待ってるからとか言って、さっさっと帰ったのよ。ちょっと見かけが良くて金持ちだからって調子に乗るなっての。本当にキショイおっさん。』

星川さんの言葉を聞いてあたしの中で何かがキレる音がした、あたしは化粧室のドアを開けて中に入った。星川奈菜は驚いて今言った事が無かったように話し掛けてきた。

『あ、雨ちゃん!?雨ちゃんもお化粧直し？そうだ今度お姉さんとお買い物に行かない？この前雨ちゃんに似合いそうなリップを見つけて･･･』

慌ててごまかそうとする星川さんを鋭い目で睨みつけた。

『黙れブス、いくら化粧直しても性格の悪さが滲み出た顔じゃ誰も寄って来ないわよ。』