ひとり<ふたり
泣かないようにギュッと握った拳に力を入れた。



もう子供からは卒業する。



俺は泣かない。



「母さんは母さんです」

「ダメよそんなの。私はあなたを捨てたの。会いになんて来ちゃいけないの。私は…」

「それでもっ!!母さんはあなただけです…」



俺に似てる目からポタポタ落ちる涙を見た。



俺のために泣いてる…。



苦しいくらい締め付けられた胸が…涙が込み上げる…。



でも…前に進むために来たんだから…泣かない。



「俺はミズキじゃなくて林太郎です。あなたの息子だ。だから…いつまでも母さんのことを想ってます」

「うぅっ…」



崩れるように泣く母さんを見て、スッと気が楽になった。



時間が経てば少しはこの関係もマシになるかもしれない。



でも俺だって悪かったんだ…。



ミズキになろうとして、母さんを混乱させた…。



母さん、ごめんなさい。



俺はこのまま、俺として生きて行きます。



「会いたかっただけなので今日は帰りますね」

「待って…」



ギュッと握られた手…。



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