美穂と千夏
 ああ、そうだった。

 美穂は思い出したように、マガジンラックからファッション雑誌を取り出して、どかっと床に座る。右手で目的のページを探して、左手で、スプーンを持ち、杏仁豆腐を掬って口に入れると、口の中が一気に冷えて、甘味がじわりと広がる。

「…おいし」

夏はやっぱり冷え切った杏仁豆腐に限るな、と思った。カキ氷は頭がキンキンする上に、シロップの色が舌に移ってしまう。アイスは美味しいけど、ついつい食べ過ぎて去年の夏は体重が5キロも増えたな、と思っていると、その記事に辿り着く事ができた。

『女同士の恋愛事情』

 左上に神秘的なフォントででかでかとその言葉が載っている。その下には、セーラー服を着た女の子2人が見つめあっているイラストがあった。その2人が自分と千夏の髪型と瓜二つだったことには、あえて気付かないふりをした。

 その記事には、女同士の恋愛について当たり障りのないような――でも、美穂にとっては目から鱗の出ることがいろいろ載っていた。

『レズというのは差別用語です。レズビアンかビアンと呼びましょう』

『男の人と女の人、どちらとも恋愛対象になる人を両性愛者、バイセクシュアルと呼びます。バイと略して言う事が多いです』

『日本では同性同士の結婚は認められていませんが、結婚式を挙げることはできます』
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