午前0時の誘惑
「黒川さんって、海生との付き合いは長いの?」
「海生様が高校生の頃からです」
ということは、もう十五年以上もの付き合いになる。
「それじゃ、海生のことは何でも知ってるのね」
「何でも、というわけには参りませんが」
謙遜して、照れた顔がミラーに映った。
「海生は何をしている人なの?」
答えてくれないことは承知の上。
それでも、毎度聞かずにはいられない。
いつかポロリと口にする時だって、訪れるかもしれないから。
そんな微かな期待をかけて聞くけれど、結局はいつもの言葉で一蹴されてしまう。
「それは、私の口から申し上げるべきことではございませんので」
きっと、海生から一切を口止めされているに違いない。
どういうわけだか知らないけれど、私に素性を明かせないのだ。
それならせめて……。