午前0時の誘惑

「海生は……結婚してる?」


それは、初めて口にする質問だった。
聞くに聞けなかったひとことをおそるおそる口にする。

左手薬指に光るものがないことは確認済みだけど、もしかしたら私と会う直前に外しているのかもしれない。
日付が塗り替わる瞬間、その時を一緒に過ごしたい人は、私以外にいるのかもしれない。
そんなことを漠然と感じていた。

決まった時間しか私のそばにいないことを考えると、そう思わずにはいられなかった。


「結婚は……」


もったいぶっているのか、そこで言葉を溜める。

そういう間はやめてほしい。
自分で聞いておきながら、加速していく鼓動。
聞きたくない返答をされそうで、すぐに後悔が押し寄せる。

信号で止まると、黒川さんがミラー越しに私を見据えた。
緊張が全身を凍りつかせる。


「……していません」


嬉しい否定の言葉だった。
無意識に止めていた息を一気に吐き出した。


「黒川さんってば、人が悪い。今、わざと焦らしたでしょ」

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