午前0時の誘惑
海生は、私とは住む世界の違う人。
それを再認識させられてしまう。
「全く羨ましいったらないんだから。……って、なんで浮かない顔してるの?」
今度は心配そうに、私の顔を覗き込んだ。
「え、そう?」
慌てて顔を抑えてみる。
「幸せな朝を迎えたんじゃないの?」
「幸せな朝……ね」
寂しい朝だなんて言ったら、清香は笑うかな。
贅沢なことを言うなって、怒るかな。
でも、広すぎるホテルの部屋でひとり目覚めることが、これほど虚しいなんて思いもしなかった。
海生と出会ったばかりの頃は、豪華なスイートルームを純粋に喜んでいたのに。
回を重ねるごとに、ひとりにされる午前0時の訪れが怖くなるなんて、思いもしなかった。
同じひとりで迎える朝ならば、自分の部屋がいいと思わずにいられなかった。
私の心は、すっかり海生に埋め尽くされている。
「それで、次はいつ会うの?」