午前0時の誘惑
◇◇◇
「海生様、もうすぐ夏希(なつき)様のお誕生日ですが……」
自宅の一室。
黒川がデスクの前で手帳を広げる。
夏希の誕生日、か……。
すっかり忘れていたことに、自分でも驚いた。
「それじゃ、黒川が適当に何か見繕っておいておくれ」
「それは困ります」
「ネックレスか何かでいいだろう。頼んだぞ」
頑なに拒否する黒川を何とか説き伏せ、掛けてあるジャケットを羽織った。
「そんなことより、今夜はもう何の予定も入っていないだろう?」
「あ、いえ、つい先ほど夏希様から――」
「莉良と過ごしたいから、仕事だと伝えてくれ」
言葉を遮って告げると、黒川が困惑を極めた表情を浮かべた。
「海生様が、自由奔放な莉良様に惹かれるお気持ちはわかりますが、その、何と申しましょうか……」