午前0時の誘惑
「黒川……」
聞きたくないことを全身でアピールする。
その言葉を今は聞きたくない。
「出過ぎたことを申し上げました」
一歩下がり、黒川は慇懃に頭を下げた。
黒川が何を言おうとしているのか、自分がどんなことをしているのか、そんなことは分かっている。
莉良との関係は、ずっと続けていられないことも。
残された時間がないことも。
けれど、どんな理性を持ってしても、莉良に出会ってしまったことで、彼女を求める感情に抗うことができずにいた。
早く莉良の笑顔が見たい。
早くその唇に触れたい。
莉良を抱き締めたい。
ただ、それだけだった。