午前0時の誘惑
思えば、こうして街を並んで歩くことさえ、したことがない。
していることは恋人同士と同じようなことなのに、どう考えても、そこには結び付かない。
秘密の向こうにいる海生と私の間には、透明な壁が邪魔するばかりだった。
「清香が、このところ莉良の元気がないって、心配してたぞ」
ぼんやりと考え事をしたまま歩く私に、陸也がポツリと呟く。
「清香が心配?」
「ああ。仕事中でも時々考え込んでることがあるって」
隣の席にいる清香には、誤魔化しきれなかったのだ。
もしかしたら、陸也が今夜誘ってくれたのも、私を元気づけるため?
「陸也、ありがとう」
「……何が?」
ポカンとする陸也に「ううん」と首を横に振る。
「早いところお鍋で温まろう」
陸也の腕を引いて走り出したときだった。