午前0時の誘惑
「ごめんなさい。今夜は友達と約束があるので」
陸也の存在をアピールした。
海生の一方的な都合を聞いてばかりもいられない。
思い通りになるはずの私の、ささやかなプライドだった。
「そうおっしゃられましても……」
絶えず冷静沈着な黒川さんが、当惑顔を浮かべる。
いつもの私なら簡単にその手に落ちるのに。
黒川さんにとっても予想外の展開だったのかもしれない。
でも、急にこんなところで捕まえられて、困るのは私の方だ。
「莉良、……誰?」
隣で不思議そうに私たちを見比べていた陸也が、私の耳元で囁いた。
「あ、うん……」
海生のことは、清香にしか話したことがなかった。
説明のしようがなくて、曖昧な返事しか出来ない私。
「莉良様、お願いいたします」