午前0時の誘惑

言葉尻は優しいけれど、断る権限を与えない強さを秘めた海生の言い方に、陸也は唖然とするばかりだった。


「莉良、車に乗って」

「ちょっと、海生ってば!」


私の腰を引き寄せ、無理に陸也から遠ざけようとする。

傍目からは、決して強引には見えない上品な身のこなし。
きっとそれは、私から身を寄せているようにしか見えないだろう。
抵抗を試みても、一向に効き目はないようだった。

そして私は、そこに隠された強さに従うしかなくて、結局、海生の乗り込んでしまった。

運転席と後部座席を隔てる壁がゆっくりと上がっていき、ふたりだけの空間が作られる。
海生は私の肩を抱き寄せると、髪にそっと口づけた。


「莉良は、俺に会いたくなかった?」


会いたかった。
夕べ会ったばかりだというのに、会いたくて会いたくて仕方がなかった。

でも、こんなやり方は、やっぱり許せないから。
……許したくないから。

何も答えずに黙り込んだ。

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