午前0時の誘惑
いつでもどんなときでも、海生に従う都合のいい女に、私はなりたかったわけじゃない。
海生は、会いたいと思えば私をこうして奪えるけれど、私はどうしたらいいの?
スマホのナンバーも、アドレスもLINEのIDさえ知らない私は、会いたいときにはどうしたらいいの?
握られた手を無理に解いた。
「さっきの男の人は……誰?」
「海生には関係ない」
「そんな悲しいことは言わないでくれ」
寂しそうにまつ毛を伏せた。
憂いを含んだ顔をするなんて、海生は卑怯だ。
そんな顔をされれば、『ごめんね』って、『関係なくなんてない』って、すぐに撤回したくなってしまう。
「私の都合は無視なの?」
「……ごめん。そんなつもりはないんだ。ただ莉良に会いたくて。手荒な真似をしたことは謝る」
離したはずの手は、再び海生の手の内に収められた。
優しく肩を抱かれて、海生の香りが鼻先をかすめる。
大好きな大好きな、海生の香りだ。