午前0時の誘惑
「莉良……本当に会いたかったんだ」
いつにも増して切羽詰まった声を海生が発する。
やっぱり私は、海生の上をいくことはできない。
切ない瞳に、応えてしまいたくなる。
「それじゃ、海生のことを私に話して?」
「俺のこと?」
頷く私に、海生は考えるポーズを見せる。
「莉良に話すような面白いことは、何もないよ」
首を軽く振って、口元に笑みをたたえる。
「そうじゃなくて。海生は普段、どんなことをしてるの? 私と会わないときは、どこで何をしてるの? 海生は……どこの誰なの?」
それだけでいいから、お願い、聞かせて。
両手を握り締め、海生の目を覗き込む。
初めて食い下がる私に、海生は少しだけ困った顔を見せた。
「そんな情報は、全て見かけだけの中身のないモノだ。莉良の前にいるときは、俺が俺でいられる、唯一の場所だから。今の俺だけ知っていてくれればいいんだ」