午前0時の誘惑
仕事が終わり、訪れたのはいつものホテルの一室。
控えめに点けられた照明の中、私は、スプリングが心地良いレザーソファに海生とふたりゆったりと座っていた。
西城海生(さいじょう かいせい)三十三歳。
栗色の柔らかい髪の毛は、毛先を遊ばせたラフなスタイル。
長い睫毛を伴なった奥二重の涼しげな目元は、意思の強さを感じさせる。
細い鼻筋に形のいい薄い唇。
百六十センチの私と頭ひとつ分違う背丈は、たぶん百八十センチはあるだろう。
誰もが、素敵だと思う容姿の持ち主だ。
私が、分不相応なホテルのスイートルームに通っている理由。
それは、海生との逢瀬のためだった。
その彼が、ソファの背もたれに片肘を突き、ゆっくりとその長い足を組み替えた。
「うん、それで?」
昨日の仕事帰りに立ち寄った本屋での話をしていた私。
海生は興味深そうに少しだけ身を乗り出し、私の話の先を聞きたがった。
「その店員ったらね、それと引き換えに連絡先をよこせだなんて言うの」
「ハハッ、それは莉良があまりに魅力的だったからだろ」
「もうっ、からかわないでよ」