午前0時の誘惑
「バカだな。約束は守るよ」
優しく髪を撫でる。
ほんのひとときだって、本当は離れていたくない。
この指先が感じる海生を、私だけのものに留めておきたい。
叶いもしない願いだと、どこかで察していながらも、海生を求める感情は押し殺せなかった。
「そんな格好してたら、莉良と離れるのが辛くなるだろ?」
ハッとして自分を見る。
キャミソール姿のままだったことに気づき、恥ずかしくて両手で身体を覆った。
そんなことをしても、隠せやしないけれど。
「それとも、黒川が迎えに来る前に、もう一度……」
「えっ……」
熱い視線に見つめられて、身動きが取れなくなる。
引き寄せられてソファへ押し倒された、次の瞬間、チャイムの音が響き渡った。
一瞬渋い顔を浮かべた海生は、瞬きの間にいつも通りの冷静な顔に戻っていた。
「か、海生様!? どうしてここへ!?」
「黒川、間が悪いぞ」
「はい?」
そんなやり取りが扉の方から聞こえて、思わず笑みがこぼれる。
海生と迎える朝が、これほど私に幸せな気分をもたらせるなんて知らなかった。
海生の作り出す壁の中に、ほんの少しだけ入れたような気がして、嬉しさが込み上げた。